ŋの英単語帳

英単語

戦略とは

 strategy(戦略)という単語は元は軍事用語で、それからビジネス用語となって経営戦略なんて言葉ができて、その他いろんな使われ方がされるようになっている。

 軍事用語の戦略というのは、戦争全体として、どのように戦って勝つかという問題であり、ある局面での軍事作戦の枠組みは tactics だし、個別の軍事行動は operation とか mission とか言う。

 

 それをビジネス用語に拡張したのは Alfred D. Chandler Jr. で、カタカナではアルフレッド・チャンドラーと書く…

 

 むかし私のゼミで珍事件があった。学生の報告のレジュメを見たら、なんじゃこりゃ?ってのがあったのね。ちょっとだけ経営戦略がカラむ報告だったけど、問題の部分は日本語ウィキペディアのコピペ。いわく:

レイモンド・ソーントン・チャンドラー(Raymond Thornton Chandler, 1888年7月23日 - 1959年3月26日)は、アメリカ合衆国シカゴ生まれの、小説家で脚本家。

 おいおい、チャンドラーはいつから小説を書くようになったのか?とツッコミが激しかった。もちろん私、このチャンドラーがハードボイルド小説の人であることは知ってる。ほとんど作品を読んでないけど、ギムレットには早すぎる、とか。

 

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

 

 ギムレットはこの本らしいけど、私は読んでない。

 

 当時の日本語ウィキペディアでチャンドラーはハードボイルド小説家のレイモンドの記事しかなかった。だから Google で「チャンドラー」と検索したら、このハードボイルド小説家に関するウィキペディアの記事が最初に来たので、学生そのまんまコピペしたってこと。現在の日本語ウィキペディアにはアルフレッド・チャンドラーの記事もある。

 

組織は戦略に従う

組織は戦略に従う

 

 

 チャンドラーは自動車メーカーのフォードと GM の経営史の分析を通じて、企業のトップマネジメントには経営戦略というものがあることを明らかにした。上記の本がその研究成果だが、日本語訳のタイトルは原著と違っていて、別のチャンドラーの名言を使っている。その名言の原文は "organization follows strategy" だ。

 

 さて経営戦略とは何ぞや、と聞かれれば、私はまず、このように言う:

 

マル秘。企業秘密。

 

 意外にみんな分かってないけど、当たり前の話。自社の経営戦略がライバル他社にバレたら、ライバルに先を越されるに決まってる。だから本質的に経営戦略は企業秘密なのだ。

 

 ところがビジネス誌なんかは、たとえば「docomoのスマートホン戦略」とか、実に安易に戦略という単語を使う。

 これは経営戦略のレベルやカテゴリの問題。経営戦略にもいろんなモノがあって、その中の事業戦略はある程度おおっぴらに公開される。

 なぜ事業戦略をおおっぴらにするかと言うと…つまり、弊社はかくかくしかじかこのようなやり方で稼ぎますと言わなければ、投資家が投資してくれないから。

 

 だから例えばdocomoのスマートホン戦略というのは、NTT docomo の経営戦略の中の、スマートホン事業に関する事業戦略に過ぎないのであって、それがNTT docomo の経営戦略全体のことを指す訳ではない。

 

 さらにNTT docomo の経営戦略を例にとってみよう。iPhone が登場したとき、まず日本ではソフトバンクが発売し、次いで au が発売した。ところが docomo は一向に発売しようとしなかった。

 おそらくこれは、docomo の経営戦略と iPhone とが整合しなかったせいだろう。その経営戦略がどういうものであって、なぜ iPhone と整合しなかったのかは、今だもって分からない。企業秘密だからである

 

 先日、docomoでない携帯ショップの正社員をやっている勤労学生が指摘したのだが、docomoiPhone の料金プランは他社と比べて複雑怪奇で割高とのこと(この学生の個人的見解ですので、念のため)。おそらく当時の docomo の根本的な経営戦略がいわゆるガラケーを前提としたものであり、iPhone 向け料金プランを組み立てにくかったのだろう。そして学生の指摘から類推すると、いまだもってdocomoは料金プラン等についてガラケーを引きずっている「らしい」ことを垣間見ることができる。まさしく「垣間見る」であって、経営戦略というのは事業戦略以外は、企業のコト細かな経営行動の観察をもとに類推して垣間見ることしかできない。

 

 日本企業の場合、とにかくユニクロファーストリテイリング)はガードが固い。本当に企業秘密だらけで、経営戦略を類推し垣間見るための材料の取得すら困難である。だから私は学生に対して事前に、ユニクロで卒論は書くなと厳しく申し渡しているし、ゼミでユニクロ関連の報告する学生については、「ユニクロ」という単語が出てきた瞬間に報告をさえぎって中断し、ダメ出しをしてその学生を飛ばし次の報告者に報告させることにしている。