-ism, -ist and -ian
♪ここにはない ist ism (大貫妙子「CARNAVAL」)
rhyme (ライム、音韻)的には -ist, -ism の方が良いんだけどね。
なんとかイズムがなんとか主義で、なんとかイストがなんとか主義者というのは割と良く知られている。
しかし英文の中にヒョイと sexism とか sexist なんて出てくると、面食らう人が多い。もちろん sex に -ism, -ist が付いているのだけど、もちろんセックスする主義でも、そういう主義者でもない。
この場合 sex は性行為でなく、性別のこと。性別に -ism が付くと、直訳では 性別主義、よりきちんと言えば性差別主義になる。同様に -ist が付いたら性差別主義者になる。
同様に racism, racist も、race (人種)に -ism, -ist がひっついている訳だから、人種差別主義、人種差別主義者ということ。
私が大学院を受験しようってとき、入試対策の勉強で、入試に出そうな経済学系の英語の論文を院生の先輩があてがってくださった。その中に Keynesian なんてのが出てきて、わからなかったから先輩に聞いたら、ケインズ主義だと。経済学者のケインズ Keynes に -ian を付けて、名詞化。形容詞としても使われる。
あらためて Weblio 英和辞典で調べたら、本来は -an で、音韻問題で -ian になることもある。
大学院生時代だったか、それとも大学教員になって間もない若い頃のことだったか、理系っぽい英語の論文を読んでたら、Cartesian なんてのが出てきて面食らった。調べたら、なんのことはない。Cartes はデカルト René Descartes だ。
デカルトといえば哲学者だけど、数学もやってた。んで、横軸がx軸で縦軸がy軸のグラフってのはデカルトが発明したもの。だから、数学で縦横x軸y軸があるような世界の話を Cartesian と呼ぶのだった。
デカルトの姓 Descartes は、実際のところは des Cartes。ヨーロッパで貴族っぽい家柄の人の姓には 英語の of the に相当するコトバが付く…現代のミサイル・ロケットの父とも言える Wernher von Braun (ヴェルナー・フォン・ブラウン)の von、あるいは画家の Vincent Willem van Gogh (フィンセント・ファン・ゴッホ)の van も、そうしたものだ。
こうした事情があってデカルトの場合、姓の本体は Cartes になる。それに -ian が付いて Cartesian になるという次第。
そいや、
世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
- 作者: 入山章栄
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2012/11/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 10人 クリック: 92回
- この商品を含むブログ (59件) を見る
入山さんって今は早稲田大学の先生のようだが、この本の執筆当時はアメリカの大学勤めで。なんちゅうか、いまいち日本語が不自由な人だなあという文章。
-ian について言えば、統計学でガウシアン統計学・ベイズ統計学という言い方をしている。これは、おかしい。
ガウシアンは Gaussian。これはドイツの数学者 Johann Carl Friedrich Gauß が元で、Gauß の英語スペル Gauss に -ian がついたもの。
一方ベイズ統計学のベイズは、これまた数学者の Thomas Bayes が元。だから英語では Bayesian になる訳だし、カタカナで書くのであればベイジアンにしなければならない。それなのに「ベイズ」と人名のまんま。
だいいち日本でガウシアン統計学とは、あまり言わない。普通はガウス統計学だ。Bayesian は普通にベイズ統計学と言う。
だから日本語で文章を書くのであれば、ガウス統計学・ベイズ統計学と、-ian を付けずに統一するのが適切。なんでガウスだけ -ian のついたガウシアン統計学になるのか分からない。
そういった事柄がこの本には散見されるので、いまいち日本語が不自由と私は言うのである。